帝釈天の庚申 2  
 カメラ部品メーカーの創立者、山本栄之介氏が住宅として使用していた和洋折衷様式の建物、山本亭。大正末期から昭和初期の間に建てられ、現在では観光名所の一つとなっている、らしい……。というのも、私は今まで山本亭の存在すら知らず、柴又に来ても帝釈天で引き返していたのだ。聞けば、一般公開されたのは平成3年4月からのこと。帝釈天で毎年参拝していた頃は、まだ開放されていなかったのだろう。10年を優に超える月日が流れていることに気づかされ、唖然とする。

 入館料100円と喫茶の代金を払い、玄関を上がる。書院庭園を眺めながら、抹茶と練りきりをいただいていると、田舎に帰ってきたような気持ちになる。東京生まれの東京育ちで、帰る田舎などないのに。懐かしいような気持ちになるのは、ここが昭和63年まで実際に“家”として機能していたからか。

 風鈴の音色に耳を傾けながら、当時を生きた人々に思いを馳せた。
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