文京朝顔・ほおずき市 プロローグ 
着物を着るのは何年振りになるだろう。

 七五三で“着せられた”ときの記憶といえば、動きづらくてクタクタに疲れたことぐらい。卒業式の袴も、最後は息苦しくなって、脱ぐのを心待ちにしていたっけ。
「着物って聞くと堅苦しく考えがちだけど、江戸時代の人たちの普段着だったんだから、そんな気負って着る必要はないんだよ」
 その一言に押され、浴衣に袖を通した。今まで人任せだった着付けも、初めて自分でやってみた。浴衣くらい何とかなるだろうと、見よう見まねでやったはいいものの、すぐに着崩れるし、洋服と違って袖は邪魔だし、虫にやたらと刺されるし……。でも不思議と、子供の頃のような窮屈感は感じなかった。

 浴衣が少し身近になった。
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